「債務整理」に関するお役立ち情報
借金の踏み倒しのリスクと対処法
1 借金の踏み倒しは可能なのか
消費者金融やクレジットカードの借金を滞納している人の中には、「なんとか借金を踏み倒せないか?」と考えている人もいるようです。
しかし、結論から述べますと、借金の踏み倒しは難しいと言わざるを得ません。
また、借金の滞納を放置したまま逃げ得を狙っていると、痛い目に遭う可能性があります。
以下では、借金の踏み倒しによるリスクや、踏み倒しを考えるほどの借金を抱えてしまった場合の対処法について説明いたします。
2 借金の踏み倒しが難しい理由
「借金は時効で消える」と聞いたことがある人も多いかと思います。
確かに、借金の消滅時効期間が満了すれば、債務者は、時効を「援用」することで借金の返済義務から解放されます。
そこで「どうせ返済できないのだから、このまま一銭も返さずに滞納を続けて、時効で借金を踏み倒すことを目指そう」という方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これはあまり現実的ではありません。
⑴ 時効の期間と更新
消滅時効については、以下の条件のうち、どちらか早い方が消滅時効の期間として採用されます。
・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
・権利を行使することができるときから10年間
もっとも、お金の貸し借りをする場合、債権者は、権利を行使できる時期、平たく言えば返済期日を知っているのが普通です。
よって通常は、2つの起算点は一致していますので、基本的には、消滅時効が成立するまでの期間は「返済期日から5年」と考えてください。
なお、改正民法施行日より前にされた契約(2020年3月31日までの契約)については、改正前の民法の消滅時効のルールが適用されますので、ご注意ください。
さて、債権者側は当然、時効制度のルールも熟知しています。
そんな債権者が、漫然と時効期間の満了を待つということは考えにくく、実際、債権者は時効を成立させないように、様々な手を打ってきます。
例えば「督促」です。
督促を受けた債務者が「◯日後に払います」と約束した場合、時効の期間がリセット(時効が更新)されて、返済約束から新たに5年経たなければ時効が成立しなくなります。
また、「100円でいいから払ってください」「すぐ支払ってくれたら利息をお得にしますよ」などと言われて払ってしまった場合も、同様に期間がリセットされてしまいます。
債務者が督促に応じない場合には、債権者は、裁判所に訴訟や支払督促を起こすことが可能です。
訴訟や支払督促の間は時効が進まなくなり、権利が確定すると時効が更新されます。
しかも、裁判後は、さらに10年経たないと時効が完成しません。
このように、債権者側には様々な対策があるため、債権者の不作為を前提として時効の成立を期待することは、まずできないのです。
⑵ 住所変更や海外逃亡も非現実的
督促を受けないように住所を変えるか、海外逃亡をしても、法律的な意味で借金を踏み倒すことはできないでしょう。
その理由を説明していきます。
- ①債権者は住民票を調査可能
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債権者には、法律に基づいて債務者の住民票を調べる権利があります。
情報技術の発達によってカード会社や消費者金融の調査能力が向上しているので、昔よりも遥かに早く居場所を探り当てられてしまいます。
引っ越し後も住民票を移さないという方法もありますが、そうなると行政サービスを受けるのに支障をきたします。
何年も逃げ回って「もう大丈夫だろう」と住民票を移した途端に居場所を把握されることもあるかもしれません。
- ②本人不在でも訴えられる
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「自分が海外にいるか、居場所を知られなければ、裁判になんてならないだろう。裁判ができなければ、いずれ時効が成立するので、それまでの間だけ逃げておけばいい」…こう考えて海外に逃げる人もいるでしょう。
しかし、裁判には「公示送達」という手続があります。
これは、住所不明で連絡の取れない人間を訴えた場合、その旨を裁判所内の掲示板に広告することによって、被告側に通知したとみなす(つまり、訴状や呼び出し状を被告本人に交付したものと同じ扱いにする)制度です。
裁判所内の掲示板を定期的に見る人はほぼいないため、被告側は、訴えられた事実すら知らないまま、裁判だけが予定されたスケジュール通りに進みます。
裁判が起きている事実自体を知らない以上、当然、被告が裁判所に出廷したり、反論の書面を裁判所に提出したりすることもありませんから、この場合、最終的には、被告が原告の訴えの内容を争わずに全面的に自白したものとして、原告の請求を全て認容した判決が言い渡されます。
被告に対する判決の送達も、公示送達の方法により行われることになり、控訴期間の経過を待って、判決が確定します。
債権者が債務名義である確定判決を取得すると、そこから差し押さえなどの強制執行が行われる可能性があるのです。
国内に財産がある場合には、それが差し押さえられるかもしれません。
特に、現在の民事執行法のルールでは、債務名義を取得している債権者は、一定の条件を満たした場合、債務者の財産に関する情報の提供を金融機関、登記所、市区町村などに求めることが可能となっていますので、債務者が債権者に自ら財産の所在・内容を申告したことがないからと言って、決して安心はできません。
- ③保証人に請求がいく
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この他にも、借主である債務者本人と連絡が取れなくなった場合、債権者は、借金の保証人へと請求を行います。
保証人に請求が行くため、保証人は大きな迷惑を被ります。
場合によっては、保証人自身が債務整理をせざるを得なくなる可能性があります。
3 借金の滞納を続けるリスク・悪影響
また、踏み倒しをする、しないに関わらず、借金の滞納を続けることにはリスクがあります。
具体的には、以下のような悪影響が考えられます。
⑴ 督促で精神的な負担がかかる
借金を滞納していると、債権者から、完済するまで督促がされます。
少なくとも一般的な貸金業者については、一昔前のように「怖い人が朝晩押しかけてくる」というようなことはありませんが、郵便や電話、自宅への訪問などで、法的措置も匂わせるような督促を受ける日が連続して続くと、頭の中が借金でいっぱいになってしまい、日常生活に支障をきたす恐れがあります。
電話や訪問での督促に関しては、債務者に同居の家族がいる場合は、債務者自身が不在でも家族に債権者への対応の手間を取らせてしまう可能性があります。
⑵ ブラックリストに載る
借金の滞納を続けると、その情報(事故情報)が、滞納先の債権者が加盟する信用情報機関を介して、銀行や貸金業者、クレジットカード会社などの間で共有されます。
いわゆる「ブラックリスト」に登録されたという扱いになり、この事故情報が残っている間は、基本的に業者はお金を貸してくれなくなります。。
「滞納した経験のある人にお金を貸すと踏み倒されるかも」と考えるためです。
結果的にクレジットカードやローンの利用ができなくなるので、生活が不便になってしまいます。
⑶ 遅延損害金が発生する
借金の滞納中は、完済されるまで遅延損害金が加算されていきます。
この状態で借金を返済しても、そのお金は先に遅延損害金や利息の支払いに充当されるため、元本を減らすことが難しくなるのです。
元本が残っていると、その元本から再び利息・損害金が発生するので、完済への道のりは厳しくなってしまいます。
⑷ 財産を差し押さえらえる
借金の滞納を続け、債権者からの督促を受けてもなお滞納を続けると、債権者が法的措置を実行する可能性があります。
具体的には、裁判所で訴訟や支払督促を行います。
裁判所からの訴状・支払督促を無視していると、債権者は裁判手続等を経て、「債務名義」と呼ばれる強制執行の根拠となる文書を手にします。
これにより法律上、債務者に対して、差し押さえ等の強制執行に踏み切ることができる状態になります。
(債務名義には、仮執行宣言付き支払督促、確定判決などがあります。なお、裁判所は関与していませんが、公証人が作成した強制執行受諾文言付きの公正証書も債務名義の一種です。)
差し押さえが行われると、対象となった債務者の銀行口座の残高や給与の一部などが差し押さえられ、強制的に借金の返済に充てられます。
また、住宅ローンを滞納している場合は、住宅ローン債権者によって抵当権が実行されて、家が競売されてしまう可能性もあります。
その他、車のローンを滞納しているケースや、リース物件のリース料を滞納しているケース等では、債権者によって車やリース物件が引き揚げられるリスクが考えられます。
⑸ 罪に問われる?
借金の滞納を続けている人の中には、「このまま滞納を続けていると、いずれ逮捕されるのでは…」と不安を感じている人もいるようです。
脱税などお金に関する事柄で逮捕される人を報道で見ているせいで、そのような考えを抱くのかもしれません。
単に借金を滞納し続けたからと言って、警察に逮捕されることはありません。
ただし、最初から借金を踏み倒す気で、返済できる見込みもないのに返済能力があるように偽っていた場合には、詐欺罪に当たるとして債権者から警察に通報されるかもしれません。
4 借金問題は債務整理で根本的な解決を!
以上の通り、借金の踏み倒しは現実的に難しいですし、そもそも借金の滞納を続けること自体に大きなリスクがあります。
「時効で借金を踏み倒してしまおう」と考えた結果、債務者側にとって勝てる見込みのない裁判に発展するなどして、事態が深刻化するかもしれません。
そうなる前に、借金でお悩みの場合は、弁護士に相談してください。
弁護士は「債務整理」という、借金を減額したり返済計画を変えたりする手続によって、無理なく返済できるようにしてくれます。
場合によっては、借金を原則ゼロにできる「自己破産」が可能かもしれませんし、あるいは、借金を大幅に減額した上で分割返済していく「個人再生」が可能かもしれません。また、「20年以上前の借金の督促が来た」という場合には、時効の援用を行えるかもしれません。
いずれにせよ、その人にとって選択し得るあるいは選択すべき債務整理の方針というのは、本人では判断が難しいケースが多いです。
債務整理を得意とする弁護士であれば、解決に役立つ様々な知恵を持っています。
一人で悩まず、できるだけ早く、当法人にご相談ください。
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